2020年5月9日(土) 配信
イタリアのローマには、若かりし頃を含め都合10回ほど訪れているが、その都度楽しみにしているのは「スペイン広場」である。いつ訪れても、階段にも広場にも観光客であふれているのは、この広場の美的景観だけではなく、1953年製作の映画「ローマの休日」のためであろう。今の若い世代でも必ずこの映画は見ていて、ローマ観光の最大の目玉になっている。
物語は、親善訪問でローマを訪れたさる王国の女王様のしがない新聞記者との淡い恋がテーマだが、ウィリアム・ワイラー監督が結末を実に感動的に描いている。この時のデビュー早々のオードリー・ヘプバーンの美しさが見事だった。子供の私が観た映画では、ヘプバーンの魅力というよりは女性というものの美しさに目覚めた、という覚醒感の方が強い。それほど彼女の美しさが普遍的であった、というべきであろう。
長じて、「女であること自体が美しい」という概念は捨てなければならない局面に幾度となく出会うことになるが、この宗旨は今でも持ち続けている。何年か前、再放映の「ローマの休日」を観たが、あくまでも無垢なヘプバーンの美しさにまた感嘆した。その時、ふと彼女の女としての美しさを明らかに支持している小物があると気が付いた。首に輝いている「真珠のネックレス」である。
さらに最近、イギリスの推理作家アガサ・クリスティのポートレートを見ていて、気が付かなかった彼女の美しさに瞠目したが、やはりネックレスが彼女の美しさを雄弁に引き立てている。女性と真珠が一体となって、女という存在を美しく造形している、といったらよいのかもしれない。
2019年の産業観光まちづくり大賞のなかに、志摩市の真珠養殖とその活用が入っていたが、内容は「志摩を訪れた女性客にアコヤガイの養殖場で真珠の取り出しと、それを使った宝飾品の試作」という体験観光であった。貝の中で大切に育てられた真珠を見つけるのも、真珠の飾りを創るのも、大いなる体験だし喜びに違いない。
しかし、私の直感は女性が希求する体験とは発見でも創作でもなく、身に付けた何気ない真珠が彼女の美しさを際立たせ、女性としての存在を賞賛と感動の坩堝に引き込むことでないだろうか。その「真珠美人」のコンテストを開くとしたら、美しき真珠を生み出した志摩市しかない、と私には思える。一連の真珠を胸に、世界中の国々から真珠美人の集まる大会を夢見ている。その大会が出す賞の名前は「オードリーアワード」と決めてはいるが。
コラムニスト紹介
エッセイスト 望月 照彦 氏
若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。
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「街のデッサン(229)」 女性で在ることだけで美しい オードリーアワードの考え方 - 旅行新聞新社
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