2019年は、埼玉県飯能市に「ムーミンバレーパーク」もオープン。再びあのキャラクターが注目を集めるようになった。2020年はそのムーミンの生みの親である、フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの物語が映画化。お披露目されたのは、9月10日に始まった第45回トロント国際映画祭だ。
カンヌ、ヴェネチア、ベルリンに次いで世界でも最大規模を誇るこの映画祭は、最高賞である観客賞(ピープルズ・チョイス・アワード)、つまり一般に愛された作品が、その後のアカデミー賞も左右するという、映画界にとっては重要なフェスティバルである。一昨年は、それまで賞レースでは無名の存在だった『グリーンブック』が、トロントの観客賞で一気にアカデミー賞作品賞まで上り詰めた。昨年は『ジョジョ・ラビット』だったが、『パラサイト 半地下の家族』もトロントの上映時は異様な観客の盛り上がりを見せていた。
そのトロント国際映画祭も2020年は規模を大幅に縮小。従来、300本以上が上映されていたが、今年は50本ほど。現地の劇場で地元の観客を対象に上映も行われているが、海外からのプレスは呼ばず、オンライン中心の開催となっている。しかし縮小されたとはいえ、トロントで上映される作品は、やはり世界の注目の的なのは間違いない。
ムーミンの原作者、トーベ・ヤンソンを主人公にした『Tove』は、トーベの母国、フィンランドで作られた映画。トロントでは一般向けの上映はなく、プレスとインダストリー(映画会社)向けにオンライン上映された。そもそも、トーベ・ヤンソンと聞いて、その顔をイメージできる人は少ないだろうし、性別すら知らない人も多いかもしれない。トーベは女性である。
フィンランドでも有名な彫刻家の父と、画家で商業デザイナーの母の間に生まれたトーベは、自然に絵を描くようになり、自身もアーティストになるべく日々、努力を重ねていた。すでにムーミンのデッサンも描いていたのだが、父親から「そんなものは芸術じゃない。やめろ!」と当然のごとく罵倒されるのである。芸術家としての高い理想をもち、頭のかたい父親に何もかも否定され、彼女はムーミンを自分だけの世界に閉じ込めていく
映画『Tove』は、そんな抑圧された主人公が、いくつもの出会いを通して外に目を開き、自分の描きたいものを追い求める姿をドラマチックに描いていく。最大のポイントはその「出会い」で、男性の恋人がいたトーベは、あるときヘルシンキ市長の娘で劇作家のヴィヴィカと惹かれ合い、恋におちてしまう。ヴィヴィカはトーベの独自の才能に気づき、ムーミンのキャラクターでお芝居を上演しようと試みる。その他にも、トーベの愛の運命はかなり劇的。しかも赤裸々に展開していくのだが、その合間に、たとえばニョロニョロの動きをひらめくシーン、体の小さな夫婦、トフスランとビフスランの解釈、そしてスナフキンを描く様子など、ムーミンのファンにとっては何度も感動する瞬間が訪れる。
驚くのは、トーベを演じたアルマ・ポイスティの作品の中での変貌である。世間知らずだったトーベが、自身に正直に、そして強い意志を得るようになるまでを、見事な表情の変化で表現しているのだ。
この『Tove』は現在、日本での公開は未定だし、トロントのラインナップの中でも小さな作品。もちろん観客賞には無縁。しかし、こうした意外な掘り出し物が多いのもトロント映画祭でもある。日本ではムーミンバレーパークも話題になり、キャラクター人気も根強いので、ぜひ公開が決まることを切望したい。
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September 12, 2020 at 06:13AM
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あの「ムーミン」原作者の美しい愛の物語と名作誕生の秘話が映画に。【トロント国際映画祭】(斉藤博昭) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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