中学・高校生のころ、学校から「行っちゃいかん」と言われている映画を友だちとよく観にいった。いわゆる「成人映画」というやつだ。どうやって入館したのだろう?
あのころの成人映画では、大事な場面になると通常はボカシが入るのだが、ときどきバラの花が現れた。それも女性の下腹部全体を覆うばかりの巨大な深紅のバラで、その唐突さはシュールでさえあった。ぼくたちはどう反応していいのかわからなかった。劇場内の暗がりからは苦笑が漏れたりしたものだ。
こんな品のない話からはじめてしまったのは、ある本で「植物にとって花は生殖器である」と書いてあるのを読んだからだ。たしかに小学校の理科の授業では、おしべとめしべによる受粉の話を習った。するとおしべは男性生殖器で、めしべは女性生殖器ということになる。でも誰も花を生殖器としては見ない。だってあんなに可憐(かれん)に、華麗に、太陽に向かってはつらつとその姿をさらしているんですもの。
ぼくたちの感覚では、生殖器というのは隠すものである。現に動物はだいたい目立たないところに収納している。「陰部」という言葉もあるくらいだ。ところが植物の場合、生殖器は「太陽にほえる」状態でいちばん目立つところに咲き誇っている。なぜなのか?
動かないからである。動けない植物は、生殖のために何かを利用する必要がある。風とか虫とか。そのためには玄関先の目立つところに麗々しく飾り立てておく必要がある。さらに「風さんよろしく」「虫さんいらっしゃい」といった具合に、色や匂(にお)いによって友好的な雰囲気を醸し出さなければならない。それが植物にとってのデザインなのだろう。
つまり植物にとってのデザインとは色や形、匂いを含め他者を誘惑するためのものなのだ。しかも花と虫の関係を見ると、両者は牧歌的な共存関係を築いているようだ。うらやましい話だが、そのあたりに「美」の本質はあるのかもしれない。
種を保存し、子孫を残し、繁殖するために、植物は色も形も匂いもさまざまな花をデザインした。その花をめでて「きれいだなあ」と言ったり、結婚式やお葬式に飾ったり、誕生日にプレゼントしたりしている。ぼくたち人間は、やっぱりヘンな生き物なのかなあ?
日刊工業新聞2020年10月23日
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