すべての物事はどこかで必ず響きあう。とはいえ、遠い惑星同士のようなチェスと音楽が、こんなに近しい関係だったとは。
この小説は、チェス盤の下から「自動チェス人形」を操り、数々の名勝負のうち音楽にもたとえうる美しい棋譜を残した青年（それは人形の名前でもあるが）リトル・アリョーヒンの物語だ。ホテルに本部をおくチェス組織で、このチェス人形になりきり、一躍名を上げる。
なぜ盤下なのか。それはチェスを覚えたての少年時代、難しい局面になるとチェス盤の下に潜って指すと心が安らぎ、集中力が研ぎ澄まされた経験にもとづく。乳児の頃の病がもとで孤独だった少年にとってチェスの手ほどきをしてくれたマスターと、これは小説の題名にも関わるが猫のポーン、デパートの屋上にいる象のインディラは守り神だった。
少年はみるみる腕を上げる。マスターは折にふれ「慌てるな、坊や」と駒の声に耳を澄ますよう少年を導く。盤の下で少年の眼は研ぎ澄まされ、「頭の中のチェス盤で奏でられるメロディーの方が、ずっと繊細で深みがある」ことに気づく。
メロディーとは対局者と交互に指す一手一手が紡ぐ詩のこと。名勝負とは相手と奏であい、美しい棋譜を残す「広大な交響曲」だとマスターは教えた。観戦者も巻き込む舞台なのだ。そして二つとして同じ棋譜（演奏）はない。
時のひと藤井聡太二冠はＡＩ全盛でも「盤上の物語の価値は不変」だと語った。そのメロディーが織りなす物語は棋界の伝統に連なる棋譜となるため、一手（音）たりとも御座なりにはできないという心構えだろう。
小説の結末は悲しい。だが読者は、主人公の美しい詩と軌跡に気づき、救われるはずだ。
堺市西区 ノリノ ４４
◇
【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月～土曜日の夕刊１面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。
投稿はペンネーム可。６００字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒５５６－８６６１産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはｂｉｂｌｉｏ＠ｓａｎｋｅｉ．ｃｏ．ｊｐ。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。
"美しい" - Google ニュース
August 22, 2020 at 11:22AM
https://ift.tt/31gRSlG
【ビブリオエッセー】美しい棋譜は交響曲のように 「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子（文春文庫） - 産経ニュース
"美しい" - Google ニュース
https://ift.tt/2QJVqYa
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
Bagikan Berita Ini
0 Response to "【ビブリオエッセー】美しい棋譜は交響曲のように 「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子（文春文庫） - 産経ニュース"
Post a Comment